近年、日本では公共施設や交通機関のバリアフリー化が進み、「誰もが移動しやすい社会へ」という取り組みが広がっており、バリアフリー化の実施状況など数字の上では着実な前進が見られます。
しかし、実際に車いすで外出しようとすると、数字だけでは見えてこない「負担」がいまだに多く残っているのが現実です。
こうした見えにくい負担が重なることにより、「外出をすること」自体を諦めてしまう状況も少なくありません。
「バリアフリーが進んでいると言われているのに、なぜ車椅子による移動はこんなにも大変なのか?」
この記事ではその疑問を出発点に、日本のバリアフリーの現状と課題を分かりやすく整理しながら、車椅子利用者の移動をサポートする介護タクシーの役割やメリットを丁寧に解説していきます。
移動に不安を感じているご本人・ご家族、介助者の方々にとって、「どんな移動手段が一番安心できるのか?」を判断する材料になる内容になっています。
まずは、国や自治体がどのようなバリアフリー施策を進めているのか、その現状から確認していきましょう。
国・自治体が進めるバリアフリー施策(制度)
日本では、高齢者や障害者が安全に移動できる社会を目指し、「高齢者や障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)」が制定されています。
この法律をもとに、公共交通機関・道路・建築物のバリアフリー化が進められ、国・自治体・事業者が協力して整備を進めています。
特に公共交通機関においては、国土交通省が「移動等円滑化基準」を設け、車両の構造やホーム設備、案内表示の改善などが体系的に進められてきました。
また、物理的な整備に加えて、案内・接遇などの「心のバリアフリー」も重点項目として位置づけられています。
次に、今現在、国や自治体が実際に進めている公共交通機関やインフラ整備などのバリアフリー施策を、その達成度とともに解説します。
まず、国土交通省の令和5年度データを見ると、以下のように数字の上では着実な前進が見られます。
- 鉄軌道車両のバリアフリー化:59.9% (前年比+3.0%)
- ノンステップバス:70.5%(前年比+2.5%)
- リフト付きバス等:8.6%(前年比+2.1%)
- 福祉タクシー(UD含む):52,553台(前年比+7,242台)
参考資料:国土交通省|公共交通機関におけるバリアフリー化の状況について~令和5年度 移動等円滑化に関する実績の集計結果概要~
段差解消、スロープ設置、多目的トイレや専用駐車スペースの整備など、物理的なインフラも少しずつ整っています。
しかし、こうした整備率が上がっている一方で、地域差や交通機関ごとの対応の違い、運用面でのバラつきもあり、「整備されているはずなのに使いにくい」という声が残っているのも事実です。
数字の上でバリアフリーが進んでいても、実際に車椅子で移動する際には、依然として多くの不安や負担が生じています。
では、車椅子利用者の方々はどのような場面で困難を感じているのでしょうか。
車椅子利用者が感じる「移動時の不安・困りごと」
バリアフリー整備そのものは進んでいるものの、いざ車椅子で外出しようとすると、数字では見えてこない使いづらさに直面することが多くあります。
例えば、
- 建物・施設入口/通路・ドア幅・段差・スロープの勾配
- 道路・歩道・路面状況(傾斜・段差・舗装状態)や駐車スペースの確保
- 駅・バス停・乗降設備の不十分さ(ホームと車両の段差、バス車両のリフト未整備など)
- 情報・案内の不足(案内表示・誘導設備などが未整備)や「心のバリアフリー」も含めた配慮の欠如
などが、車椅子利用者の大きな壁になっていることが多いです。
車椅子による降車・乗車で時間がかかる・混雑があるということはもちろん、目的地での駐車・乗降・荷物・介助の手配など、ドア・通路・エレベーターの確保が必ずしもスムーズにいかない場合もあります。
さらに、距離・荷物・天候など、公共交通利用がそもそも適さないケースもあるでしょう。
理想としては「公共交通機関+車椅子の介助付き」が利用の際の望ましい形ですが、実現には制度等がまだ十分には整っていないという現実があります。
そのため、国土交通省の関東運輸局のホームページには「障がい者にとっては、いまだにバリアが多い」との厳しい意見が寄せられています。
参考資料:国土交通省 関東運輸局|バリアフリーに関するご意見等
また、車椅子利用者・介助者の立場から見た、移動にかかる負担やストレスもあります。
身近なことでいうと、自家用車からの乗り降りやその際の車椅子の出し入れ、駐車、目的地についた際の移動が不便であったりすることなどです。
また、滞在先にさまざまな設備があっても運用・誘導が不十分であったり、その時の混雑具合や体力的負担など、公共交通機関利用時の安心できないポイントもたくさんあります。
こうした公共交通機関の「不安・困りごと」が重なると、車椅子利用者は外出の機会を減らしたり、移動の選択肢を制限したりするという要因になってしまうのです。
車椅子で外出する際に選べる主な移動手段
では、こうした不安や負担を踏まえたうえで、車椅子で外出するときに実際どんな移動手段を選べるのか整理してみましょう。
車椅子で外出するとき、選べる移動手段は大きく分けて次の4つがあります。
- 公共交通機関(電車・バスなど)
- 自家用車(家族による送迎)
- UDタクシー(ユニバーサルデザインタクシー)
- 介護タクシー
それぞれにメリットがありますが、同時に次のような課題も残ります。
● 公共交通機関
段差・混雑・乗り換え・運用面のばらつきなど、状況によって負担が大きく変わる。
● 自家用車・家族送迎
乗降の介助や車椅子の積み込みが大変。駐車場所や目的地での動線も不安要素に。
● UDタクシー
車椅子で乗車しやすいが、介助は基本的にないため、サポートが必要な場合は不向き。
こうした理由から、「移動そのものはできるけれど、安心して利用できるか」という視点で見ると、どの手段もあと一歩足りないと感じる場面が少なくありません。
では、この足りない部分を補い、外出の不安をトータルで減らせる手段はあるのでしょうか?
「介護タクシー」が解決できること

公共交通機関のバリアフリー化が進む一方で、車椅子による移動には、段差・案内不足・乗降の不安・駐車位置の問題など、いまだ多くの見えない負担が残っています。
こうした状況の中で、「もっと安心して外出したい」「移動の不安を減らしたい」と考えたとき、頼れる選択肢となるのが介護タクシーです。
介護タクシーは「移動そのものの負担」を減らすサービス
介護タクシーは、公共交通機関のように乗り場まで移動したり混雑に合わせたりする必要がなく、自宅から目的地までを一続きの流れでサポートしてくれる点が大きな特徴です。
車椅子のまま乗車できる車両に加え、乗降時の介助や荷物の補助など、外出時の負担を生む細かなポイントもまとめて任せられるため、「移動そのもののしづらさ」を根本から解消してくれます。
介護タクシーには、
- 介護保険適用の介護タクシー
- 介護保険適用外の介護タクシー
の2つの種類があります。
介護保険タクシーとは、日常的に車いすを使用している方や、自力で移動ができない方を対象としたサービスのことです。
介護関連の資格を有するプロのドライバーが、目的地まで安全に送り届けてくれるだけでなく、乗降などにおける介助を行ってくれるため、安心して利用できます。
また、一般的なタクシーとは異なり、介護保険が使えるため、費用負担も軽減できます。
ただし、利用目的には制限が設けられており、
- 医療機関への通院
- 市役所などでの生活上必要な手続き
- 選挙
- 介護保険施設の見学
- 金融機関での預貯金の引き下ろし
- 補聴器や眼鏡など本人が現場に行かなければならない買い物
上記のような場合にしか使えませんので、注意が必要です。
いっぽう、介護保険適用外の介護タクシーは福祉タクシーとも呼ばれ、高齢者や障害のある方などサポートが必要な方々の移動を支援するタクシーです。
こちらは、病院までの送迎・買い物の付き添い・冠婚葬祭の付き添い・旅行や観光の付き添いなどさまざまな移動のサポートをします。
なお、「対象は高齢者や障害のある方のみ」といった利用制限はなく、要介護認定を受けていない方でも利用可能で、ご家族や介助者も一緒に乗車できます。
本記事の中では、どちらも「介護タクシー」という表記で統一させていただきます。
公共交通機関・家族送迎・UDタクシー・介護タクシーの比較
車椅子で外出する際には、公共交通機関、UDタクシー、介護タクシー、そして家族の自家用車による送迎など、選べる手段はいくつかあります。
しかし、それぞれの使いやすさや負担は大きく異なり、状況によって向いているケースも違います。
以下の表は、それぞれの移動手段のポイントを表にまとめたものです。
| 項目 | 公共交通機関 | 家族の自家用車・送迎 | UDタクシー | 介護タクシー |
|---|---|---|---|---|
| 費用 | 安い | ガソリン代など実費 | 一般タクシー料金 | やや高め(介助料含む) |
| 利便性 | 乗り換え・時間調整が必要 | 家族の予定に左右される | 拾い(流し)がメイン | 完全予約制/柔軟に対応 |
| 乗降のしやすさ | 段差・混雑・距離の負担が大きい | 家族が介助するため負担が大きい | スロープ搭載で比較的スムーズ | 介助ありで安心して乗降可能 |
| 移動スタイル | 駅や停留所まで自力移動が必要 | 家から目的地まで直接移動 | ドアtoドア(介助なし) | ドアtoドア+介助付き |
| 介助の有無 | 原則なし | 家族のスキルに依存 | 原則なし(有料介助あり) | 乗降・移動中の介助あり |
| 同乗者 | 制限なし | 家族が運転+同乗可能 | 家族・介助者も同乗可 | 家族・介助者も同乗可 |
| 向いているケース | 費用重視/体力に余裕がある人 | 近距離・短時間の外出 | 移動が自立している車椅子利用者 | 介助が必要な方・移動に不安がある方 |
おすすめの介護タクシー利用場面
介護タクシーは、車内で車椅子利用者の方が快適に過ごせる設備が充実していたり介助者がついていたりと、公共交通機関やUDタクシーよりも利用しやすい場合が多いです。
そこで、車椅子利用者が介護タクシーを利用するのにおすすめのシチュエーションを、日常のちょっとした外出から特別なイベントまで、いくつかご紹介します。
友人宅への訪問
介護タクシーを利用すれば、友人宅への訪問もスムーズに行えます。
特に身体が不自由な方や移動が困難な方でも、介助付きで安全に訪問することが可能です。
久しぶりの再会や気軽な外出も、移動に気をとられず楽しめるのが大きな魅力です。
食事会や集まりへの参加
食事会や親しい人々との集まりにも、介護タクシーを利用することで気軽に参加できます。
会場までの移動も安心して行えるため、特別な日に外出し、素敵な思い出を作ることができます。
嗜好品の買い物
日常生活の中で、趣味や嗜好品の買い物も大切な楽しみの一つです。
介護タクシーを利用すれば、移動が難しい方でも好きな場所へ安全に出かけ、趣味に関するアイテムや嗜好品の買い物をより快適に楽しむことができます。
旅行・レジャー
観光地やレジャー施設への家族旅行にも、介護タクシーは最適です。
高齢者や障害のある方と一緒に出かける際、車椅子対応の介護タクシーであれば、観光やレジャーをより快適に安心して楽しめます。
里帰り
遠方に住む家族のもとへ里帰りする際にも、介護タクシーが役立ちます。
長距離移動でも、車椅子のまま乗車できるため、より快適に実家や親戚の家に訪れることができます。
介護タクシー予約アプリ「よぶぞー」を活用して移動をもっと便利に

介護タクシーの配車アプリ「よぶぞー」では、ご利用になりたい時に簡単に介護タクシーを予約・配車することができます。
よぶぞーは予約者と利用者を分けて登録できるため、ご家族が遠方からお迎えを手配したり、施設スタッフが代理で予約したりと、状況に合わせた使い方が可能です。
※ご本人様が予約者兼利用者として登録することも可能です。
また、予約内容やお迎えの連絡は「予約者」「利用者」の両方に届くため、安心してご利用いただけます。
さらに、予約前に目安料金を表示する機能や、介助内容・車椅子やストレッチャーの利用可否など、必要な条件を入力するだけで最適な介護タクシーを依頼できる仕組みも整っています。
電話でのやり取りや細かい説明が不要になり、近距離の外出でも依頼しやすいのが特徴です。
介護タクシーがより身近な移動手段になるアプリ「よぶぞー」を、ぜひご活用ください。
まとめ
日本のバリアフリー化は、着実に進んでいます。
しかし、車椅子を利用する方々にとっては、段差や通路の幅、案内の不備など、いまだに不安になる場面が多々見受けられます。
こうした状況下で車椅子利用者の快適な外出を実現できるのは、配慮が行き届いた「介護タクシー」であるといえます。
公共交通機関もうまく利用しながら「介護タクシー」を上手に活用することで、移動の不安を減らし、より自由で安心な暮らしを実現していきましょう。


